3章

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 鏡也が自分の腰へと手を伸ばす。  何を、と思ったら、彼はポケットから細長い物を取り出した。 「な……何でカッターなんか」 「不法侵入者かと思ったからだよ」  薄く、不純な笑みを浮かべた。 「侵入したのは事実だな、岬」  チキチキチキ、と聞き慣れた音。銀色の刃が姿を現す。  すっ、と鏡也の表情が消える。 「お前を兄貴に渡したくない」  首筋に鋭い衝撃が走った。 「っ!」  血液が解放される。  カシャン、とカッターナイフがフローリングに跳ねる。自らの血液が床に散ったのを、岬は見ずとも察した。  鏡也の体が深く覆いかぶさる。次の瞬間、信じられないほど強烈な刺激が首筋から走り抜けた。 「あっ、ああああっ!」  体が跳ねる。叫びに近い喘ぎが口を突いた。  首筋から血を吸われている。その刺激は紛れもない快感だった。腕から吸われる時とは比べ物にならないほど近く、激しい。  ズボンの中で、自分のモノが張り詰めるのが分かった。襲い来る快感と羞恥心が頭をめちゃくちゃにした。 「やっ、やめ……ああっ、ん! 鏡也っ。きょうやぁっ!」  振り上げかけた岬の腕を、鏡也は掴んで押し付ける。華奢な体にこんなにも力があるのか、と思うほど強く。そして振りほどこうにも、もう体に力が入らなかった。  このまま、ここで終わりなんだろうか。  解決策も何もないまま、彼らの懺悔と衝動に飲まれるまま終わってしまうんだろうか。  それでいいんだろうか。  鏡也だって、本当はこんな風にしたいわけじゃない。きっとそうなのに……  記憶が、霞がかる意識の上を流れていく。  ……僕は何のために血を吸われるんだろう。  彼は何のために血を吸うんだろう。  彼は何のために血を拒むんだろう。  僕らは誰のために思いを振りかざすんだろう。  みんな、みんなが好きなだけなのに。  愛しているだけなのに。  あぁ……そうだよ……。みんな、幸せになりたいだけなんだ。  すっ、と体から力が抜けた。
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