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それを認めたのか、ピクリと鏡也が身じろぐ。
「鏡也……」
彼の名を呼んだ。首に感じる陰圧が弱まり、消えた。
そして、唇が離れる感触。
「……岬?」
耳元で名を呼ばれる。
岬は緩く笑んだ。
「好きだよ、鏡也」
彼の息が止まった。
「僕も……鏡也の事が好き――これはきっと、好きっていう感情なんだって、今理解した」
鏡也が身を起こした。見開かれた瞳が岬を見下ろした。
岬は微笑んだ。
「……」
体を抑え付けられる力が消える。
ゆっくりと、岬は体を起こした。
ソファの上で二人は見つめ合った。惑いに揺れる緑色の瞳と、淡い笑みの黒い瞳。
岬の方から視線を逸らした。
「でも、ごめん。僕は愚かだから……別の感情も消化できないままここにいる」
鏡也の手がピクリと動いた。
「選ぼうと思った。でも選べなかった。そんな選択は卑怯だって言うなら、ここで僕をなぶり尽くしてもらって構わないよ。好きだって言ってくれた鏡也にはその権利がある。でもこれが、僕が僕自身の内側に正直になった結果なんだ」
再び視線を上げた。
「枯れるまで血を吸われても、僕は、捨てきれなかった感情を持ってあの人を探すと思う。空に満月が浮かんでいる間中、出会えるまでさまよい回ると思う。ううん、絶対に」
強い視線で、鏡也を見つめた。
それが岬の結論だった。解決策だった。
受け入れられるか分からない。
ただ、その不安以上に、己の得た理解を常識や理性で偽ることはできなかった。
幸せになりたい自分の、身勝手な願いだった。
無言の時間が流れた。
窓から入ってくる風が、緩く緩く頬を撫でていく。
「……証拠を」
岬は目を瞬いた。
「俺の事が好きだって言う証拠……が……欲しい」
視線を伏せた鏡也が、そうつぶやいた。縋るような口調だった。
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