3章

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 それを認めたのか、ピクリと鏡也が身じろぐ。 「鏡也……」  彼の名を呼んだ。首に感じる陰圧が弱まり、消えた。  そして、唇が離れる感触。 「……岬?」  耳元で名を呼ばれる。  岬は緩く笑んだ。 「好きだよ、鏡也」  彼の息が止まった。 「僕も……鏡也の事が好き――これはきっと、好きっていう感情なんだって、今理解した」  鏡也が身を起こした。見開かれた瞳が岬を見下ろした。  岬は微笑んだ。 「……」  体を抑え付けられる力が消える。  ゆっくりと、岬は体を起こした。  ソファの上で二人は見つめ合った。惑いに揺れる緑色の瞳と、淡い笑みの黒い瞳。  岬の方から視線を逸らした。 「でも、ごめん。僕は愚かだから……別の感情も消化できないままここにいる」  鏡也の手がピクリと動いた。 「選ぼうと思った。でも選べなかった。そんな選択は卑怯だって言うなら、ここで僕をなぶり尽くしてもらって構わないよ。好きだって言ってくれた鏡也にはその権利がある。でもこれが、僕が僕自身の内側に正直になった結果なんだ」  再び視線を上げた。 「枯れるまで血を吸われても、僕は、捨てきれなかった感情を持ってあの人を探すと思う。空に満月が浮かんでいる間中、出会えるまでさまよい回ると思う。ううん、絶対に」  強い視線で、鏡也を見つめた。  それが岬の結論だった。解決策だった。  受け入れられるか分からない。  ただ、その不安以上に、己の得た理解を常識や理性で偽ることはできなかった。  幸せになりたい自分の、身勝手な願いだった。  無言の時間が流れた。  窓から入ってくる風が、緩く緩く頬を撫でていく。 「……証拠を」  岬は目を瞬いた。 「俺の事が好きだって言う証拠……が……欲しい」  視線を伏せた鏡也が、そうつぶやいた。縋るような口調だった。
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