3章

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 唇が触れ合っているだけなのに、心地よかった。  時間の感覚が無くなるような、無垢で愛おしいひと時。  ゆっくりと、岬は唇を離した。  瞼を開けると、鏡也もまた目を開いた。  その淵から一筋、涙が流れ落ちる。  紅潮した頬を流れ、血液を溶かしながら輪郭を伝う。 「……学校」  ぽつりと彼は言った。 「満月の日は、いつも学校に行ってる。月見には最高だとか、バカ言って」  岬は頷いた。  また鏡也とキスしたい。  本心に願いながら、ソファを立った。 〝ありがとう〟  そう言いかけ、やめる。 「また木曜日に」  振り返った先の鏡也は、ソファに座り込んだまま、窓の向こうの夜景色を眺めていた。
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