3章

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 快晴の夜空だった。  夕陽の残渣はとうに失せ、漆黒に浸った空気が宵の到来を告げている。  十一月。  夜の風は早くも冷たく、シャツに薄いジャケットを羽織っただけの岬は、耳元で風音が鳴るたび身をすくめた。マフラーを持ってくればよかったと意識の浅瀬で思う。  走るうち、血液と共に熱がめぐる。外気の洗礼は次第に気にならなくなった。  岬は全力で走っていた。通りがかった古い商店がアナログの時計を掲げている。午後七時半、すぎ。日没をとうに過ぎた時間の今は、酌量の余地なく夜だ。  今、彼は何をしているのか。  どんな様子なのか。  想像するしかなかった。そして生まれる想像全てが繰り出す足の速度を速めた。  先生。笹原先生。  心の中で彼を呼びながら、通り慣れた道を逆に辿る。八○五号室から学校へ。そして、きっと屋上へ。  そこでもう一度、出会わせてください。  僕の気持ちを聞いてください。  あなたとも、また最初から始めさせてください―― 「はぁっ、はぁっ……着いた!」  足が丹沢高校の正門を抜ける。  岬はそこで一度足を止めた。膝に手を突き、肩を揺らして喘ぐ。心臓が激しく脈を打ち、予想以上に息が上がっていた。  苦しい。意識が遠のきそうだ。  もしかして、大量に失血している影響……?  掠れた息を吐き出し、顔を上げた。  それがどうしたって言うんだ。 「働けよ、遺伝子!」  自らの細胞に一喝すると、再び地を蹴った。
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