3章

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 夜の学校。帰宅部の岬はこの時間の学び舎を全く知らなかった。  おまけに今日は日曜日。校舎が開いている保証はない。グラウンドは既に人気が無く、ここから見えるA校舎の窓も全て明かりが落ちていた。  中庭に躍り出る。  顔を上げ、まずB校舎を眺めまわした。二階、生物準備室は闇に沈んでいる。中に誰かいるのかいないのか、ここからではハッキリしなかった。  鏡也からもらった情報は〝学校〟までだった。もしかすると根城にしている生物準備室かもしれない――が、彼が窓越しの月見に満足するような人物だとは、直感的に思えなかった。  それに、予感がしていた。きっと自分は屋上へとたどり着くだろう、と。  運命が運命の体をなしているのなら、再び出会うべき場所へと導くだろう、と。  視界の四隅が霞んでいることに気づかないまま、岬は身を返した。  対峙したのはC校舎。唯一四階建ての建物で、屋上への階段が作られているのもここだった。  岬は目を凝らした。コンクリートの輪郭に人影を見出すことはできない。宵闇の中、そしてたった一つの光源が暗順応を邪魔する状況では当然だった。  そう、この校舎の一か所には、明かりが付いていた。  美術室だ。窓の場所から断定する。  そして思い出す。クラスメイトの波多野真理が、最近は美術部も日曜出勤だと言っていた事を。文化祭が終わり、立て続けに開催される県展覧会に応募する作品を、猛スピードで仕上げているらしい。  見上げているうち、ふっと明かりが消える。最後の部員が退室したのだろう。  このタイミングを逃したら校舎に施錠されてしまう。  岬は弾かれたように走り出した。ドアにかじりつくが、開かない。  一瞬絶望が頭を覆ったが、はっと気づいて反対側のドアへと走った。  開いた。  ガラスの開き戸が動くなり、岬は校舎の中へと踊り込んだ。
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