79人が本棚に入れています
本棚に追加
「とうに許された罪に囚われて、偽りのシアワセを押し付けてる。自分と、鏡也に。今の方がうんと愚かなんだって、そろそろ分かってください」
岬は目を細めた。
「……でないと、僕も一生幸せにはなれない」
夜風が吹き抜けた。
満月は変わらず、遠く近い空に浮かんでいる。澄んだ光は世闇を裂き、岬の瞳から流れた涙を照らした。
「飲んでください。僕の血……」
突然、くらりと意識が傾いた。
「っ、岬くん!?」
身を崩した岬の体を笹原が抱きとめる。
強く接した彼の体。しかし心臓が飛び跳ねるには、意識と血液が足りなかった。
「ぁ……ごめんなさい。ちょっと……ふらついて」
故意無く彼の胸に体を預ける。気のせいか、鉄の匂いが漂うように感じた。
「貧血……なのか?」
心配そうな声が頭上にかかる。岬は首を振った。
「このくらい……すぐに治ります……から」
目を閉じる。闇の中で、ふわふわとした重力感が襲ってくる。
頬を誰かの手が撫でた。当然、笹原の手だ。こんなタイミングで倒れるなんて、と自分自身を呪う。
奇妙な違和感が、意識の霞を揺さぶる。
これは、嗅ぎ慣れた……血の匂い。
岬ははっと目を開いた。
「なっ!?」
凝視する。気づいた笹原が慌てて手を引っ込めたが、散ったそれを偽ることは不可能だった。
最初のコメントを投稿しよう!