3章

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 岬は一瞬で理解した。 「先生!」  顔を跳ね上げ、笹原を見る。  彼は観念したように苦笑していた。 「自分の……血を……」 「そうだよ。これもまた愚かだって言われるんだろうね」  自嘲の言葉がこぼれた。 「Ⅰ型とはいえ、俺も紛れもないマリアホリックのアディクトだ。普段は赤ワインで抑えられても、この満月の日だけは、本物のネクターを飲まないと乗り切れない」 「だからって、自分の血なんて!」 「これが一番、無害な選択だったんだよ」  岬は揺れる視線で彼の左手首を見た。 「ヒトは……成人男性なら全血液量の五分の一、つまり一リットルほど失血しても死には至らない。飲むのはグラス一杯で十分だ。俺は死なないし、無くなった血液も数日で回復する」  そしてまた、次の満月に手首を切る。 「痛く……無いんですか?」 「それは痛いよ。出血に関しては、俺は一般人も同然だからね」  岬の素性を知っているがゆえの答えだ。  OHGの患者は、定期的な〝血抜き〟のために、ある種の痛覚への緩衝機構を持っている。  彼にはそれがない。無いのに……彼は今日も血を流している。  もう、これきりだ。  岬は笹原の腕を取った。とっさの攻撃に彼は身じろいだ。  まくり上げられた黒いシャツ。のぞく手首には一直線の裂け目が走り、そこから液体が流れ出ている。足元のグラスに入っているのは、彼自身の血液だったのだ。  岬は彼の傷口に口づけた。
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