3章

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 再びいざなわれた激しいキスが、告白への答えだった。  まるで隔たっていた時間を取り戻すかのように、強く、長く。笹原は岬の唇をむさぼった。  いいんですか? 先生。こんな僕で。自分勝手な僕で。  二重の愛に溺れてしまった僕で。 「あなたのマリアになりたい……」  離れた唇の迫間でそうつぶやいた。  目を閉じる。  その瞼を髪の感触が撫でる。笹原の頭が岬の肩口に落ちた。  そこでピタリと、彼の動きが止まる。 「……血が……服に」 「あ……」  笹原はすぐに察したようだった。 「鏡也に飲ませたんだね」  頷く。 「いつも、ここから?」 「……いえ、普段は手首で……首は今日……初めて」  笹原が身を起こした。なぜだかいつくしむ様な視線が注がれる。 「なら、俺は……」  そうつぶやくと、反対側の肩口へと顔を埋めた。肌に息がかかり、岬はきゅっと目を閉じた。 「……いいかい?」  頷く。何度もそう願っているんだから――心の内でそう続けた。  湿った吐息が首筋にかかる。  固い、何かの先端が二か所、皮膚に触れた。 『牙があるんだ』  短く鋭い圧力。直後、そこから血液が溢れ出した。 「ぅ……ああっ、んあっ」  岬は身をよじった。  例えようもない快感が全身を震わせる。体が崩れ落ちないよう、その快感を与えている青年の体にしがみついた。  牙で貫かれ、血を吸われる。  物語につづられる悲劇のシーンは、実際はひたすらに官能的で、性感的で、狂おしい程に愛しかった。  体中をめぐる快感。連鎖的に反応する下半身。抱き合い、密着しているこの体勢では、気づかれないようにする事など不可能だろう。  それに最早、この押し寄せる快感の渦の中では、気づかれまいと身を離す思考すらかき消えていた。 「っ……んん、せんせ……」  血を吸う力が強くなる。激しい刺激に、ビクビクと体が震えた。 「あっ、あ――」  不意に世界が遠くなった。
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