1章

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「どうしたの」 「……岬くん、彼女とかいる?」  一瞬、聞き違いかと思った。 「……はっ?」 「彼女よ、かーのじょ。恋人。もう高校生なんだからいてもいいんじゃない?」  聞き違いではなかったようだ。 「……いない」 「じゃ、今までは?」 「いない」 「へぇ。浩輔と違ってオクテなのねー。従兄のクセに」  由紀菜は視線を逸らした岬の額を、指でパッチンした。 「モテそうだけどねぇ、岬くん。カワイイ顔してるし。程よいサイズだし」  思春期の少年にとって全く嬉しくないほめ言葉だ。 「由紀菜さん、今の話に彼女とか関係なくない?」 「うーん、それが意外とあるんだよね」  岬は怪訝な目で由紀菜を窺った。 「岬くんには刺激が強すぎるかもしれない」 「いいよ。何だって聞くから」 「じゃあ、ネクターその二を教えてあげる」  ぴっ、と人差し指を突きつける。 「ミルク」 「牛乳?」 「違う、母乳よ」  無意識に由紀菜の胸に視線が動いていた。 「こらっ。タダ見は針山の刑よ」  ぺしっ、と額をはたかれた。  岬は驚いた顔で、今度は由紀菜の顔を見つめた。彼女は真顔だ。 「母乳……ホントに?」 「ホントよ。考えてみなさい。母乳は乳児を育てる唯一無二の液体でしょ。ネクターの定義に当てはまって当然じゃない」  確かにそうだ。そしてどこかで聞きかじった話だが、男性がいくつになっても女性の乳を吸いたがるのは、そこから恵まれる母乳を求めているからとか―― 「だから彼女がどうのって聞いたの?」 「まーね。でも現実問題、母乳はネクターとして現実味が薄い選択肢だってことも分かるわよね?」  頷く。それはそうだ。好き好んで見ず知らずのアディクトに乳を吸わせる母などいない。そのネクターは赤ん坊のためにあって然るべきだ。 「じゃあ実質、ネクターは血だけってこと?」  由紀菜は何か言いかけ、口をつぐんだ。
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