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岬はソファから立ち上がった。
「本気なの、由紀菜さん」
「冗談に聞こえた?」
「冗談だとしか思えない」
「あら、何でよ」
心外そうに目を丸くされる。それに岬は気圧された。
「だって、僕が誰かの提供者……マリアになったら、こんな風に機関の方に血を分けられなくなるじゃない。提供者がいなくなったら由紀菜さんも困るんじゃないの」
「ああ、それを心配してたのね」
由紀菜はポンと手を打った。
「大丈夫よ。むしろもっと頻繁に抜いてもいいくらいだわ」
「もっと頻繁に?」
「そう。最近、自分で瀉血する回数が多くなってるでしょ」
ギクリとする。
「図星ね。岬くん自身が言ってたじゃない。最近、酷くなってるって。多かれ少なかれ、ほとんど毎日〝血抜き〟しないと不安だって」
岬は唇を噛んだ。
内側からの圧力――心臓を掻き立てる血液の怒号。過剰生成された血液が血管を張り裂かんばかりの勢いで巡る、全身をかき乱されるような感覚。
以前はもっと穏やかだった。いや、穏やかなんて言葉は似合わない。マシだった。毎日手首を切りつけては、噴出する血液を見つめるなんて、前は……そうだ、噴水みたいに噴き出すなんて事も稀だったのに。
今では張り裂けて死ぬかもしれないという恐怖が常に存在する。隣り合わせの場所で、己の非現実的な末路が哄笑を上げながら待ち構えている。
「週一で通って七本抜かせてもらってるけど……ホントは少しずつ、こまめに抜いたほうがいいのよね。高血圧状態が続くのはつらいだろうし、溜めて一気に抜くと、急性貧血を起こす可能性があるから」
一時的な失血状態を避けるために、血圧に応じて採血の上限量は決められている。今の七本は上限に近い。
「……前は五本だったよね」
ローテーブルの保冷バッグを見る。頷く由紀菜。
「採らせてもらうようになってから、だいたいいつも五本だったわ。これも多い方よ」
従兄の浩輔はいつか「俺は四本いくかな」と言っていた。五本と言われた時もあったような気がする。
「ねぇ岬くん」
呼ばれ、顔を上げる。
「症状がこんなに酷くなったのはいつから? 覚えてる?」
少し視線を宙に泳がせた後、頷く。
「今年の四月くらい、だと思う」
「高校に入学した頃ね」
由紀菜は確信を得た顔をした。
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