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高校の屋上なんて場所はこう、もっと有意義なイベントに使うべきスポットだと思う。
親友と将来を語らったり、ひとり人生を黄昏たり、好きな人の背を見つけて走り出したり。
そんなモノを望める立場に僕はいない。
両目を開ける。瞼越しの燐光だった光が、青い色彩と共に瞳の中へと注ぐ。
高い空が広がっていた。夏休みも終わって早ひと月。そろそろ本格的に秋へと足を踏み入れ始めた季節だ。
左腕を上げる。正午過ぎ、寝転んだ体の上に降る陽の光が、指の間から斜めにこぼれ落ちる。まだ夏服のままの制服。どこからか吹いてきた風が、半袖の白い袖口から細く入ってきた。
緩い温度――――
ずくん、と血管がうずいた。
「っ……」
顔をしかめた。
来た。また今日も。今年に入ってから日に日に激しくなる。何で? 何で……
脳裏に鮮やかな色彩があふれる。
始まりは二年前。それから数度もめぐった四季。全ての時間に僕は自ら、この色彩をまき散らしてきた。
仕方がないんだよ。
ぐっ、と左手を握った。
ずくん。
右手をついて体を起こす。砂利っぽい感触が手の平でざらつく。
「う……」
ずくん、ずくん。
立ち上がり、右手を制服のズボンで払う。
ずくん、ずくん、ずくん。
その手をズボンのポケットに入れる。細長い棒状の物体。
ずくん、ずくん、ずくん、ずくん。
使い慣れた感触のそれを取り出す。
ギシン、と、血管がきしむ。
心臓が叫ぶ。
〝早く。やるんだ今日も〟
……きっと明日も。
「っ!」
カッターナイフの刃を最大に押し出し、左手首をかき切った。
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