1章

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「浩輔もマリアになったのよ」 「い……いつ?」 「岬くんと同じ。高校一年の時。一つ上の先輩にアディクトがいたの。彼と結ばれたことで、浩輔は毎日の瀉血から解放されたのよ」  毎日の―― 「浩輔もね、一時そうだったの。岬くんと同じように、アディクトと遺伝子が惹き合ったせい。運命なのよ。惹き合って、出会って、そして結果、浩輔は幸せになった」  幸せになった。  そう発した一瞬、由紀菜の顔は不思議な感じに笑んだ。  が、岬にはその意味が分からなかった。 「浩輔兄さんは幸せになった……」  生徒会長だった権限でこっそり複製したらしい、あの屋上の鍵をくれた従兄。同じ奇病に悩まされ、七年前、同じ場所で自らの体を切り裂き、血液を開放していた従兄。  そんな彼が、幸せになった。 「浩輔と同じことをしろとは言わないわ」  由紀菜が言う。 「決めるのは岬くんよ。このままひそかに屋上に血液を撒き続けてもいいし、採血の頻度と量を上げてもいい」  彼女は深く瞬き、 「彼らのマリアになっても、いい」  言った。  岬の目の奥に、また黒いシャツがちらついた。
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