79人が本棚に入れています
本棚に追加
「浩輔もマリアになったのよ」
「い……いつ?」
「岬くんと同じ。高校一年の時。一つ上の先輩にアディクトがいたの。彼と結ばれたことで、浩輔は毎日の瀉血から解放されたのよ」
毎日の――
「浩輔もね、一時そうだったの。岬くんと同じように、アディクトと遺伝子が惹き合ったせい。運命なのよ。惹き合って、出会って、そして結果、浩輔は幸せになった」
幸せになった。
そう発した一瞬、由紀菜の顔は不思議な感じに笑んだ。
が、岬にはその意味が分からなかった。
「浩輔兄さんは幸せになった……」
生徒会長だった権限でこっそり複製したらしい、あの屋上の鍵をくれた従兄。同じ奇病に悩まされ、七年前、同じ場所で自らの体を切り裂き、血液を開放していた従兄。
そんな彼が、幸せになった。
「浩輔と同じことをしろとは言わないわ」
由紀菜が言う。
「決めるのは岬くんよ。このままひそかに屋上に血液を撒き続けてもいいし、採血の頻度と量を上げてもいい」
彼女は深く瞬き、
「彼らのマリアになっても、いい」
言った。
岬の目の奥に、また黒いシャツがちらついた。
最初のコメントを投稿しよう!