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ちらっとデスクの上を見る。空のグラスの向こうに、辛うじて赤ワインの襲撃を逃れたサンドウィッチ。
料理も洗濯もこなすなんて、本当にどんな人なんだ。全然想像ができない。
「それじゃ、今日もこれに着替えるといい。返すのはいつでもいいよ」
笹原はシャツを岬の手に戻した。両手でシャツを受け取り、岬は頷いた。
シャツを見ながら、先生、と言いかけた時だった。
「――それで」
笹原が先に口を開いた。
「今日の放課後は大丈夫かい?」
「えっ?」
岬はシャツから顔を上げた。
「部活か何かがあるならいいんだけれど……都合がつくなら、早速来てほしいんだ」
真顔で、笹原は言う。
「鏡也に会ってほしい。そして……キミの血を分けてほしい。最近症状が酷くてね、禁断症状が怖くて土日も外出できなかった」
辛そうに眉をひそめる。
「今日も休ませているんだ。あんな状態じゃ、学校なんて行かせられない」
学校。
え、学校?
思ってもみなかった単語に、岬は「えっ」と声を漏らした。
「そうなんだよ。ああまで進行すると、いつクラスメイトを襲うか分からない」
クラスメイト。つまり彼のように、教師というわけではない。
「先生……ずっと聞きそびれてたんですけれど」
「ん?」
困惑のままに岬は尋ねた。
「弟さん……って……?」
あまりの惑いで、かなり漠然とした問いかけになってしまった。案の定、笹原も一瞬きょとんとする。
そして、ひとまずという風に一言。
「中学生だよ」
あれやこれやと重ねてきた想像が、一瞬でぶち壊れた。
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