1章

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 ちらっとデスクの上を見る。空のグラスの向こうに、辛うじて赤ワインの襲撃を逃れたサンドウィッチ。  料理も洗濯もこなすなんて、本当にどんな人なんだ。全然想像ができない。 「それじゃ、今日もこれに着替えるといい。返すのはいつでもいいよ」  笹原はシャツを岬の手に戻した。両手でシャツを受け取り、岬は頷いた。  シャツを見ながら、先生、と言いかけた時だった。 「――それで」  笹原が先に口を開いた。 「今日の放課後は大丈夫かい?」 「えっ?」  岬はシャツから顔を上げた。 「部活か何かがあるならいいんだけれど……都合がつくなら、早速来てほしいんだ」  真顔で、笹原は言う。 「鏡也に会ってほしい。そして……キミの血を分けてほしい。最近症状が酷くてね、禁断症状が怖くて土日も外出できなかった」  辛そうに眉をひそめる。 「今日も休ませているんだ。あんな状態じゃ、学校なんて行かせられない」  学校。  え、学校?  思ってもみなかった単語に、岬は「えっ」と声を漏らした。 「そうなんだよ。ああまで進行すると、いつクラスメイトを襲うか分からない」  クラスメイト。つまり彼のように、教師というわけではない。 「先生……ずっと聞きそびれてたんですけれど」 「ん?」  困惑のままに岬は尋ねた。 「弟さん……って……?」  あまりの惑いで、かなり漠然とした問いかけになってしまった。案の定、笹原も一瞬きょとんとする。  そして、ひとまずという風に一言。 「中学生だよ」  あれやこれやと重ねてきた想像が、一瞬でぶち壊れた。
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