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「相互利益(ウィンウィン)?」
「OHGの患者の方は、どうにかして血を抜かないと生きていけないでしょ」
だから自ら体を傷つけ、瀉血する。あるいは機関――甲種五類特別指定遺伝子疾患保護管理研究機関へ、匿名の協力者として血液を提供する。
岬は淡く嘆息した。
理不尽な運命を呪いながら、ただ血を垂れ流すよりはいい。
『お前、そこまでやっちゃ掃除が大変だろ』と苦笑しながら指摘した従兄の顔は、今でもハッキリと思い浮かぶ。
血みどろの左腕を見ても、悲鳴どころか後ずさり一つしなかった七歳上の従兄。彼に由紀菜を紹介された。俺の友達なんだけど、ヤバいバイトしてる女がいる。ヤバい事情抱えた同士で仲良くなっちまった――と。
「由紀菜さん」
「うん?」
「何で機関に就職したの?」
由紀菜はぱちくりと目を瞬いた。ショートカットの髪型は、岬と同じ丹沢高校の制服をまとっていた頃と全然変わらない。
「最初はバイトだったんでしょう? 浩輔兄さんが言ってたよ。ヤバいバイトやってる友達がいるって」
「ヤバいなんて失礼ね。献血ルームの看護師みたいなモンでしょ」
昔から無免許で採血している点はきっとヤバい。
「まぁ、成り行き? 機関も『このまま正社員で』ってストレート採用よ。就活せずに済んだわ」
あはは、と笑う。
あっけらかんとしている彼女を、岬は何とも言えない気持ちで見つめた。成り行きって。そんなテキトウな流れで人生決めちゃって大丈夫なのか。
異常と異常の相中で生きていく人生なのに。
すると由紀菜は、ふっと目元を緩めた。まるで岬の心を見透かしたかのように。
「長く関わったら、もう放り出せないよ。特に機関の登録者――マリアホリックのアディクトたちはね」
血液チューブを収めたケースを見下ろす。
「今もギリギリ回してる状況だけど……岬くんみたいな人たちの存在が無かったら、彼らはきっと生きていけない。吸血鬼がはびこってた中世とは違うんだもの。殺人か傷害罪で、心臓に杭打たれる代わりに檻の中に入れられちゃうわ」
ケースを軽く撫で、
「ホントはね、自力で幸せになるのが一番なのよ」
つぶやくように言った。
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