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 そんなある日のこと、同じように学校をサボっている秋彦とばったり会った。高校二年生の、初夏のことだった。 「笹森」  ふいに呼ばれて振り向くと、スナック菓子の袋がぬっと私の目の前に現れた。私は首を傾げた。  どうして新藤君がここにいるの? の意味だったが、彼ははきちがえ、 「食う? ってことだろ、フツー」  と口を尖らせる。 「ああ、うん。いただく」  菓子の袋のガサゴソいう音が、なぜかもどかしく感じられたのを覚えている。それは多分、青春の真ん中にいる気恥ずかしさのようなものだったのだろう。  私たちはベンチに並んで座り、時折彼が差し出す菓子を食べ、町を見下ろし続けた。これといった会話もなかった。 「三時間目か。行くかな」  笹森はどうする? とも、まだここにいるつもりか? とも聞かれなかった。彼は自分のペースでここにいて、自分のペースで立ち上がっただけだった。 「じゃあな」 「うん」  彼が立ち去ってからも、私はしばらくの間同じベンチに座り、相変わらず町を見下ろし続けていた。ふと学校の方を見ると、彼らしい人が校庭を歩いている。  彼の後ろから数名、生徒玄関目指して走ってくる生徒がいる。  何のことはない。同じように列車で通ってくる生徒が、朝、乗り遅れて今になっただけなのだ。本数が少ない田舎だから、一本乗り遅れると一時間以上待たされる。  中途半端な時間に着き、どこかで時間をつぶして区切りのいい三時間目から出るつもりの生徒たちであり、彼も時間をつぶしに公園に来ていただけのことだったのだ。
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