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「空?」
私も、空を見上げた。
落ちてきそうな真っ青の空が眩しくて目を細める。雲ひとつない晴天の空だった。嘘をついたら、すぐに見抜かれてしまいそうな空だった。
「ねえ、来て」
秋彦がそう言って立ち上がり、ベンチの後ろの芝生に寝転んだ。
「ねえ、笹森、来いよ」
私は彼に言われるまま、芝生に寝そべった。
「俺、パイロットになりたいんだ」
夢に満ちた瞳を眩しそうに細めて、彼はそう言った。
「よく見ると、可愛い唇してる」
それは秋彦が始めて言った、私に対しての、異性を意識した言葉だった。
健康な十七歳の男の子が、隣に女生徒を寝そべらせて、そういう気持ちになったのは、今思うと自然なことだ。
初めて二人で芝生に寝そべってからひと月近くが経った頃だ。それからも私たちは何回か同じように寝そべっていた。
そして空を見上げながら彼の夢の話を聞いた。自分がどれほど空に憧れているか、彼は静かな口調で話したけれど、胸中から滲み出る熱さは、聞いている私に確かに伝わってきた。
秋になり、吹く風に寒さを感じるようになった頃、私たちは初めてキスをした。
ぎこちなく、甘く、でも次第に堪えきれなくなって、舌と舌が絡み合った。唇を離した彼は息遣いが荒く、目が少し血走っていた。
人の目が気になり、私はすぐに立ち上がった。彼はまだ寝そべったままだ。
私たちは、まだ若かった。
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