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 だが、私たちはまだ一線を越えてはいなかった。キスや、お互いの身体に触ることはしても、それ以上は踏み込んではいなかった。  彼は進学を希望した。夢であるパイロットになるために、どうしても進学したいのだという。英語を身につけ、海外にも飛びたい。そのためには大学に行かなければならない。  のんべんだらりと高校生活を送っていた私とは違い、二年の冬休み前から、つまり、私たちがつきあい出してからすぐの頃から、彼は猛然と勉強していた。  田舎だから塾の数も限られていて、彼の目指す大学への指導をするような塾は町になかった。彼は冬休みの間中、隣の市の親戚の家に泊まりこんで市内の進学塾の冬期講習を受けた。  勉学に励む彼にはそうそう会えなかったけれど、寂しくはなかった。彼の夢の邪魔をしてはいけないと思っていた。休み時間や学校の行き帰りを一緒に過ごせれば、それだけで私は幸せだった。  秋彦の家は乾物屋を営んでいた。彼は次男だったし、店は長男が継ぐ。だから心おきなく夢に邁進できる。そう胸を張っていた彼を奈落の底に引き落とす事情が出てくるなんて、誰もそれこそ夢にも思わなかった。  高校三年生の6月、秋彦の父親の経営する店が、潰れた。父親は酒を飲むようになった。兄は働くために都会に出て行った。母親もパートに出るようになった。  彼は、大学進学断念を余儀なくされた。
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