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田舎から出たことのなかった私に、デパートで洋服を買ってきてくれることもあった。
美味しいと評判の洋菓子店からケーキを買ってきてくれることもあった。
できれば一緒に選びたかった。服も、ケーキも。
けれど、私はデパートや洋菓子店に連れて行って、とは言えなかった。
忙しい彼に負担をかけたくなかったのだ。
今思うと、そういう遠慮がいけなかったのかもしれないが、私は彼に従順に従う、良い子ちゃんであり続けた。そうしなければいつか捨てられると思い込んでいた。
何だか、怖かったのだ。私といる時の彼は普通に笑顔でいてくれたけれど、どこか寂しそうだった。
人が自分の夢を諦めるとき、心の中に大きな空洞ができる。それを埋めるのは、結局は自分自身だ。彼のために何ができるのか、私にはわからなかった。
自分の無力を感じた。何もできない私は、いつか愛想をつかされてしまうのではないか、と不安だった。
私は、自分に自信がなかったのだと思う。
十九歳の年の暮れ、捨てられるわけにはいかない事情が出来た。
私は、彼の子を身ごもったのだ。
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