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初夏の風が、開けた窓から入ってくる。海沿いのくねくねした国道を、慣れた様子で房子が運転している。前を行くワンボックスカーの方が、ふらふらしていてあやしい。
青空が広がり、海が無数の光の粒子をその表面に輝かせている。
通夜は六時からだったけれど、早めに出たので、まだ夕暮れ時にも間があった。波は穏やかだった。
出るときは落ち着かない気分だったけれど、車が街を抜け景色が長閑になっていくにつれ、妙にしんみりとしてきた。
言葉が頭の中からすべてなくなってしまいそうで、私はしんみりとした気持ちを取り払うかのように運転中の房子に話しかけ続けた。
ほとんどが仕事のことや新しくできた商業施設などのことだった。房子は「そうね」とか「ほんとだね」とか肯定的な返事ばかりをしていて、私の話などまともに聞いてはいなかったが、それでも構わなかった。
「いい、天気だね」
ふーっと一息ついたら、もう天気の話しか浮かばない。
「そうだね」
それ以上、ついに会話はなくなった。
一時間少しで、S町に到着した。少し早かったので、房子の親戚がやっているスナックに行き、コーヒーを淹れてもらう。
そしてそこで、私も房子も、持ってきた喪服に着替えた。今夜は房子とともに、スナックの二階に泊めてもらうことになっている。
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