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 通夜が行われる寺にはぞくぞくと、知った顔の三十代が集まってきていた。  秋彦の葬式でなければ、さながら同窓会だ。受付も、地元に残っている同級生だった。  みな大人顔になっている。あの頃のあどけなさの代わりに身につけたものはそれぞれ違うだろうけれど、一様に、年月の流れを背負った顔になっていた。  変わらずに痩せた身体つきの者、早くもお腹が出ているメタボ予備軍等、体型もそれぞれだ。 「よう、元気か?」の後の決まり文句。「あいつ、気の毒にな」。そしてその後に、自分たちの近況を報告しあっている。  けれど、房子の横でかしこまっている私には、ほとんどが話しかけてこなかった。  皆、私がかつて秋彦とつきあっていたことを知っていたから、どう声をかけたものか戸惑っているらしい。  私たちの担任だった先生はすでに勇退され、すい臓を患って入院中だという。代わりに奥さんが来ていた。体育教師と、英語教師の姿も見えた。皆一様に年をとっていた。  たくさんの花に飾られた彼の写真を、私は見た。黒い枠の中の彼は、きれいな花々に埋もれそうになって、穏やかな表情で笑っている。いい写真だ。三十代の、男の顔だった。少し日に焼けて、あの頃よりもずっと逞しさを感じさせる笑顔がそこにあった。  髪の毛を後ろでひとつに束ねた、痩せた女性が五歳くらいの男の子と並んで前列に座っている。私はずっと後ろの方にいたから、顔はよく見えなかった。  彼の奥さんと、子供に違いなかった。奥さんが時折白いハンカチを口元に当てているのがわかった。その横に、彼の母親、兄、そして、飲んだくれていた父親。父親は随分背中が縮こまったように見えた。
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