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 人は、いつかは死ぬ。遅いか早いかの違いだけれど、ここにいるほとんどの人が、この若い死に、釈然としない気持ちを抱いていることだろう。  彼の魂もいつしか浄化され、またいつかどこかの世でめぐり会うのかもしれない。だとしたら、彼と私は再びめぐり会う存在なのだろうか。  今度こそ、ともに人生を歩めるのだろうか。それとも現世と等しく、出会って別れる存在なのだろうか。  …そんなとりとめのないことを考えた。  読経が始まった。私は目を閉じた。その長い間、私はずっと目を閉じ続けていた。  暗い瞼の裏に、浮かんでくるものは特になかった。  そして読経が終わり目を開けてハッとした。無意識のうちに、私は自分の下腹に手を当てていたのだ。  考えてみると、水子になった子供に、ただの一度も供養らしき行いをしたことはなかった。そして思った。  この葬式は秋彦の葬式であると同時にこの子の葬式でもあり、そして私の中の、彼の想い出に対するさよならの儀式でもあるのだということを。  焼香の順番が近づく。前列から順番に前に出て、遺族に頭を垂れてから焼香する。  私の番が近づくにつれ、後ろに座っている同級生たちの少なからぬ好奇の目が私と、目の前にいる秋彦の妻を交互に見つめているのをひしひしと感じた。
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