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空を飛びたい。
それは、彼の夢だった。私たちはよく草むらに寝転び、空を見上げていた。幾度となく聞いた彼の台詞が、私の頭の中に木霊する。青春の、一ページとともに。
彼は若く、希望に満ちた熱い瞳を私に向け、言った。
「俺、空を飛びたいんだ…」
夢を持った若者の台詞以外の、何ものでもなかった。
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「ねえ、大丈夫?」
房子に言われ、我に返る。過去という遠くに過ぎ去ってしまった出来事が、私の中に、まるで映像を見るように甦り、迫ってきそうで急に怖くなる。
房子は言いにくそうに、何かを話し出そうとして引っ込めた。
「何? 言ってよ」
甦る彼との思い出を追い払うように、私は語気を強めて言った。彼女は黙ったまま、私の顔を見ている。
「新藤君と私のこと?」
うん、と頷いたが房子はなかなか話し出そうとはしなかった。突き上げてくるような苛立ちを感じた。私はもう一度、
「何よ、言いたいことがあるなら言ってよ」
と彼女に迫った。彼女は上目遣いで私を見ながら、一言一言を区切るように、明らかに私に気を遣った言い方で言った。
「今、こんなこと言うの、何だと思うけど、ねえ、美保、あんたが、結婚しないの、やっぱり、」
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