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『東雲様、いつも本会社の携帯電話をご利用いただきまして、誠にありがとうございます!』
新しい年度が始まろうという今日の新幹線は超満員だった。デッキに立っていても知らない人と肩が触れ合うほどで、横浜から和歌山(正確には新横浜から新大阪までが新幹線)までの約四時間半は、小さな頃から体の弱い僕にとって過酷だった。乗車後すぐに気分が悪くなり、何度もトイレに駆け込んでは酔い止めをいくつも飲んだ。
四つ目の酔い止めを飲み込んだ後、久しぶりに持ち出した携帯の画面を開いてメールのアイコンを押すと、ずっと放置していたツケが回ってきたと言うべきだろうか、とんでもない量のメールが届いていた。
『暑い夏を乗り越える必須アイテム!』
『食欲の秋を感じさせるお惣菜、二割引』
『年末年始の感謝祭!お正月の準備はできましたか?』
山のようなメールをうんざりしながらスクロールしていると、再び強烈な吐き気に襲われた。僕はすぐさま五つ目の酔い止めを取り出し、水無しで思い切り飲み込んだ。絶え間無い横揺れと羅列された小さな文字が、ますます僕のめまいを促進させてくるのだ。
酔い止めは数多く飲んでも効果は上がらない。それでも僕は少しでも気持ち悪くなればすぐに酔い止めを取り出して飲むし、落ち込んだ気分になった時も飲む。友人は「飲みすぎじゃないの?」なんて心配するけど、何てことは無い。酔い止めは僕にとって、魔法の薬みたいなものだ。自律神経の興奮を抑えるこれを飲むと、何か今まで抱えていた不安や恐怖も抑えられるような気がするのだ。出来ることならそいつらをこの手でとっ捕まえてやりたいけど、不可能だから酔い止めに頼る。以前に(そうは言ってもずっと前だけど)乙川さんが
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