一章 変わらないもの、忘れたくないもの

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「スポーツとかをやってみるといいんじゃない?」  なんて言っていたけど、今の僕はどうしてもそんな気になれなかった。確かに、昔に比べて身体も丈夫にはなってきたし、軽い運動なら大した影響も無いだろう。けれど、そんなことは問題では無い。僕にかかった呪いは身体面のものではなく、酔い止めですらどうにもできない精神的なものだったからだ。 『日給2万円の超お得バイト』 『今話題のニュースを何処よりも早く』 『本日の旬な情報はこちら!』  再び携帯の画面に目を移しても、通知の量は変わっていなかった。その通知たちは、まるで目をキラキラ輝かせているかのように、僕の方をじっと見つめている。  僕はため息という返事を返しながら、ぼんやりとスクロールを続けた。やがて、ようやくその大量の通知を読み終えた時、僕は一番上に表示された通知に目を奪われた。 『今はもう、病院にはいないからね』  ”差出人 乙川”と表示されたそのメールは僕の感情などお構いなしに、堂々と一番上に居座っていた。それは他のメールとは違っていて、舌先をちろりと覗かせながら意地悪な笑顔を浮かべていたような気がした。  結局和歌山に着くまで、僕は八つあった酔い止めを全部飲んでしまった。
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