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静かで薄暗い場所に足音が響く。
足元を薄っすらと照らす篝火はどこか頼りなく、苔に覆われた階段はどこまで降りても終わりが見えない。
地下要塞────通称"魔王城"。ここへ侵入してから既に三日が経過している。
敵は何を考えているのかこの三日もの間、不気味な事に何も関与して来ない。罠も無く、魔物もろくに居らず、道も一つ。
疑問は多く有る。
だが、彼等に残された選択肢は一つだけ。迅速に且つ慎重に最奥を目指すのみ。
時折現れる魔物も入り口を守護していた魔物と同程度の強さで、特に苦戦することも無ければ消耗することも無い。
しかし、それらの魔物と戦うのが並の戦士であれば自らの生存を諦める他無いだろう。それぐらいには現れる魔物は強大だ。
そして彼らは“勇者一行”。その程度の魔物如きに遅れを取るような弱卒は此処には居ない。
そうして強大な魔物共を討伐しながら進む事暫く、やがて彼らの前に姿を表したのは奈落を連想させる縦穴──それの壁際に張り付くように出来た暗い底へと続く長い階段だった。
常に張り詰める緊張感。ろくな睡眠も取れていない。だが、魔力と体力の余力はまだ十分にある、それでも代わり映えのしない景色にはいい加減に嫌気が差してきていたところだ。
そうして階段を下り続けていると漸く終わりが見えてきた。心の内で安堵の溜め息をつきながら、彼らの気持ちが少しばかり軽くなった──そんな時だった、一向の足がぴたりと止まったのは。
「......っ」
強大な魔物の殺気を浴びようとも一切の躊躇いもせず進んできた彼ら。未踏を暴き、未曾有を挫き、絶望を打ち砕いてきた英雄達。
人類最高峰たる実力の持ち主である彼らが、“その気配”を感じて堪らずその足を止めた。
目前の扉は最初から開いていたのか──そんな疑問は、流れ出す空気が肌を撫ぜた時には霧散していた。
全身を舐め回すような悪寒。
じっとりと掌に汗が滲み出し、冷や汗が背中を伝う。
「......居る」
強い覇気を纏う存在がいることが感じ取れる。
一人が口にした言葉が含む意味、それを理解出来ない程仲間達の察しは悪くはない。目線を合わせて互いに頷き、意を決して先へと進む。
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