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寿商店街の松竹梅
「いやー何回聞いてもお前さんが初めてココに来た時の話は笑かしてくれるや!」
威勢のいい語り口の、角刈りのご老人は松田栄一さん。元植木職人。常連その1。
深山直、救急車搬送事件から3ヶ月。直はすっかり花岡の常連だった。週休の水曜日には花岡でブランチ。珈琲を飲みながら趣味の読書というのが定番になっている。
「松さん。勘弁してください…亜子さんが救急車を呼んでくれたんですけど、看病してもらったり迷惑かけちゃったんですから。」
「亜子ちゃんの料理はうまかったろう?病気も早く治るってもんだよ。」
回船問屋の番頭の風情。駅前にある不動産屋さんの竹下竜二さん。常連その2。
「そうなんですよ、竹さん!とにかく美味しくて!」
「まぁでも、大熱が出た理由が…」
編み物をしながら話に参加しているのは池上梅子さん。近所のパン屋さん。常連その3。
「失恋ってんだからねぇ!」
花岡の常連暦50年。寿商店街の松竹梅コンビが声を揃えて言った。
「この話はやめてくださいよー。」
「おい直坊、情けない声を出してるんじゃねぇよ。だから振られちまうんだよ。」
「まぁ…確かにヘタレてっいわれましたけどね。それで翌日大熱出すとは…自分でも情けないやらでしたけど!」
「しかしなんだね。深山くんはココに来るべくして来たというか。」
「そうそう、何てったって初恋喫茶ですもんね!うふふ。」
松竹梅コンビはニヤニヤと意味有りげに直を見る。
「な、何ですか?」
三人は目配せすると、ムードメーカーの松さんが話はじめた。
「そりゃぁお前さん。初恋が叶う店だからだよ。」
「は、初恋が叶うんですか?」
「看板の横に伝言板があるだろう?」
「ああ、ベンチの所ですよね?アレ、前から気になってました。子供の頃、ローカル線の駅で見かけたような…」
「直ちゃんもイマドキの子だよ。昔…それこそ携帯電話とかない時代はさ、駅前の伝言板とかがデエトの時とか、重要だったのよ。」
梅子さんが続ける。
「そうそう。好きな子の家に電話をかけようにも親が出るんじゃないかって思うとね、なかなかかけられないわけ。ま、電話がある家も少なかったしね。」
梅子さんから竹さんが受ける。絶妙なコンビネーションだ…
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