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「また大げさな。直さん、信じちゃいますよ!」
珈琲を出しながら亜子が言った。
(亜子さん、今日もうぐいす色のお着物がよくお似合いです…)
にやけそうになるのをぐっと堪える。
初めて花岡に来たあの日。亜子の前で不覚にも倒れ、救急車で運ばれるといった失態を演じた直だが、それが幸いし一気に親しく話をするまでになった。
(ああ…これで31とか信じられない。座敷童かコロボックルみたいに可愛いよなぁ…)
料理上手で気遣いができて…おっとりマイペースで、どこか放っておけない。つまり亜子を知るほどメロメロなのだ。
「亜子ちゃん、悪いねぇ。」
「松さんと竹さんのはカフェオレにしときました。最近、胃の調子がっていってたでしょ?」
「亜子ちゃんは私たちのホントの孫のようだよ。」
「私のおじいちゃんズ、おばあちゃんズって感じですよ?」
「亜子ちゃんも根を詰めちゃなんねぇ。少しは休憩しな。」
「そうですね、私もちょっとおしゃべりに交ぜてもらおうかな?」
亜子も自身のカップを取って来て、直の向いの席に着いた。
「で…さっきの初恋喫茶の事ですけど…」
続きが気になる直はソワソワと質問する。
「ふふ…表の伝言板。アレ、ひいおじいちゃんが喫茶花岡をしていた頃からあるんです。」
亜子が懐かしそうに話し始めた。
「祖父母からよく聞かされましたけど、昔は今みたいに簡単に連絡が付けられないでしょ?
それもデートしようなんて…なかなかおおっぴらにはいえないし。」
「そう!そこであの伝言板だ。」
「待ち合わせ時間とか、場所とかを書く。もちろん、お互いにわかる名前でね。」
「昔は私たちが通った高校が近くにあってね。高校生だから喫茶店なんかに入れない。だからお向かいの商店でラムネとか買う訳。」
「で、花岡の伝言板を見ると…な、竹さん。」
懐かしそうにうなづく竹さん。
「自分宛の書き込みがあったら嬉しかったなぁ…この伝言板でやり取りして上手く行った人間は沢山いるよ。」
「ふふ…そうだといいんですけど。それでね、いつの間にか喫茶花岡の伝言板に願い事を書くと叶う…なーんて話が大きくなっちゃって。」
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