エマージェンシー

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 土曜日の午後2時。花岡。ランチタイムを終え、亜子は店じまいをしていた。 「よう、花岡、店閉めるトコか?じゃあ、今日は時間あるよな。」  看板を取り込んでいる所に声をかけてきたのは芦田不動産のボンボン、芦田隼人だった。 「…芦田くん…これから出かける所なの。」 「出かける?ちょーどいいじゃん。荷物も持ってやるし。ついでに食事でもしていこうや。」  紫のソフトスーツに金のチェーンネックレスは、ちょっと前のホストかヤンキーといった風情。どうにも痛さ全開だ。  芦田隼人とは小学校の同級生。亜子の何をどう気に入ったのか…しつこく言い寄ってくる。それだけならまだしも、亜子とつき合った男性は嫌がらせを受け、何度も破局に追い込まれて来た。 「遠慮します。友人と約束してるので…」  いつもはおっとりしている亜子だが、芦田に対してははっきりものをいう。 「じゃ、そこまで送ってやるよ。俺、最近、車新調してさ。ポルシェ。」 「そう、それは凄いわね。でも、私は乗りたくないわ。」  露骨に嫌な顔をして断る。亜子は看板を取り込むと、さっさと中に入ってしまった。身支度を整え、勝手口から出る。すると芦田がそこに待ち受けていた。亜子は心からぞっとした。 「花岡、そんなつれない事いうなよ。ずっと俺の嫁になれって言ってるだろ。」 「私、ずっとお断りしてますよね。」  これ以上ここでやり合っているとマズい事になりそうな気がする。とにかく人がいる所に移動しなくてはと足早に通りに出る。亜子の後ろを芦田がついてくるのは振り返らなくてもわかっていた。駅に向かいながら亜子は決心を固めていた。 「え?僕にお客さん?」  直は書店のバックヤードでフェアの準備をしている所だった。 「花岡さんという、着物の女性ですけど…なんか、変な人も一緒で…副店長、お知り合いですか?そうでなければ窓口で断りますけど…」  アルバイトの女の子が困った顔で聞いてきた。着物姿の花岡という女性は亜子だろう。特に約束をした訳でもないがそれはいい。変な人というのはひっかかった。 「あ、花岡さんは知り合いだと思う。その…変な人ってのは…」
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