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暗闇のなかにいた。
ぬくもりに包まれたみたいで、とても心地いい。
人肌のような、体にすっとなじむような温度は、なんとも言えず安心できる。
明るい場所は嫌いだ。心の奥に押し込めた、どろどろ汚れたものを見透かされそうだから。
心穏やかな時間に浸っていると、ぬくもりが背中にぴったりくっついてきた。脇腹に、肩に、そしてうなじへまとわりつく。
無防備な左の耳朶に、ふっ、と熱い風が触った。
そう、まるで吐息のような湿り気を含んだ、熱い風だ。
吐息?
誰の?
誰だっけ?
ああ、哲哉か。昨日来てたもんな。
「……寝てる?」
すこしくぐもった低い声が、左耳に響く。
うん、寝てる寝てる。
だから起こすな。
明日、というか今日も仕事なんだから。
それに昨日の夕方しただろ。
しかも、二回も。
「静……」
抱きつかれた。
哲哉の手は大きくて、ちょっとふしくれだってて、でも、おれよりずっと器用だ。その手がおれの胸や腹や、腰や太ももをなでまわす。
正直、ぞくぞくした。
「静……ねえ」
声が熱を帯びて、その熱がおれに伝染する。
目覚めてすぐって、普段より何だか気持ちいい。理性より本能のほうが優先されるのかもしれない。
仕事に差し支えるとか、寝不足で体がキツくなるとか、そういう現実で大切なことが、だんだんどうでも良くなってくる。
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