佐藤の回想②

3/4
897人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
「何か用・・?」 物置小屋の前に立っている佐藤に女が尋ねた。最初に連れてこられた時と比べて随分とやつれている。佐藤に思考のきっかけを与えた女。蒲田から「杏」と呼ばれていた女。 「逃げよう。」 蒲田の持っていた鍵を手に、佐藤は手錠を外してやる。 「どういうこと?」 突然の佐藤の来訪に杏は動揺しながら尋ねる。 「考えたんだ。なぜ俺は奴隷なのか?」 お前のおかげだと付け加えた。 カチリという音と共に手錠は外れ、地面に落ちる。 「そしてなぜこの世界で奴隷が生まれてるのか?」 座っている杏に手を差し伸べ、佐藤はさらに言葉を続ける。 「人類が貧富の差を越え、お互いの違いを認め合いながら同じ方向を見る時。それはどんな時か。」 佐藤は口の中が乾くのを感じる。これだけ自分の言葉で話をしたのは初めてのことだ。 「それは・・どんな時なの?」 立ち上がりながら杏が言う。手首を逆の手でさすりながらも、佐藤を見た。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!