兎姫と狼人間

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「おいジジィ、どーゆー事だ?」 「あっ!百合さん待っとった……」 「未成年との待ち合わせ場所じゃねーだろうが」 怒りに震えながらキツネ面の首を掴もうとすると、隣のお姉さん達が止めに入った。 「ちょっ、いっちゃんに乱暴は止めて?お孫……さん?」 耳は生えているがとてつもない美人だし、20代前半で商売とはいえ『まさか彼女じゃないよね』的な視線にプロを感じる。 「身内じゃありません。従業員ですが、そんなキツネに全く興味ありません永久に!」 「もう、すぐに般若になるんじゃから。百合ちゃんに美味しい飲み物とスイーツもあるから」 「お前の趣味に付き合ってる場合じゃねーんだよ!内容は文面でよこして、タクシーを今すぐ呼べ」 苛立つ私の背後にボーイさんが、デザートの皿とジュースをテーブルにそっと置いてくれている。 「当店一番人気のバニープリンと、レディにはキャロットジュースです」 まん丸くお椀形のプルプルのプリンの上には生クリームがデコレーションされている。 美味しそうなのは分かるが、どう考えてもモチーフは目の前にいるお姉さん方のバストにしか見えない。 「これ胸だよね?オッサン達こんなの食べてんの?」 「美味しいのよそれ、パティシエに特別に作らせてるから味は満点だよ?」 お姉さん方に説得されて席にはついたが、こんな注文をされたパティシエも可哀想に思える。 でも社長に寄り添いながら、こちらを不安そうに見るお姉さん方が少し気の毒になり一口頬張った。 「……美味しい」 「じゃろ?百合さんの好みだと思っておったんじゃ、ここを選んだのは趣味だけじゃないぞ?」 必死にフォローを入れる社長は無視して、プリンを食べていると、同じソファの端でお酒を飲む男性がジトーッとした目でこちらを見ていた。 「滋さん、なんか文句でもあるんですか?」 「何そのオシャレな格好。メイクまでして、ここに来るまでに誰かとデートしてないよね?」 氷のような冷やかな眼差しだが、イチイチ説明するのも面倒なので、スルーしてプリンの追加を注文をした。 いつもは放置されてる社長も、ここではかなり人気のようで女性達に囲まれ話も盛り上がっている。
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