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翌日から私達に思いもよらない試練の火の粉が降り注ぐ。
ダンスの特訓でパートナーはばあやだが、年齢を感じさせない身のこなしに引きかえ、私達はへっぴり腰で注意を受けてばかりいた。
「瑠里ガニ股止めなさい!百合肩が下がってる!」
海外ドラマでは優雅に踊っていたので、笑顔の裏にこんな過酷なステップがあるなら、舞台裏は知らない方が良かった。
「こんなん修行だよ、少林寺とかの方がまだいい」
「瑠里、弱音を吐くんじゃないよ、リズムに乗って……足を踏まない!」
怒られながらレッスンを続け、休憩になると二人共に職場でのトレーニングよりグッタリしていた。
貧乏人でダンスといえば運動会に踊ったフォークダンスくらいしか経験がない。
小さい頃から習っていて可愛さもエレガントさも備わってる姫はさすがだと思うが、そもそも私達が影武者をする事に無理がある。
アイスティを飲んでいると部屋にノックがされ、ばあやが出ると八雲さんがこちらに手招きしている。
疲れきった顔でドアの外に出ると、無言で中庭の方まで連れて行かれた。
「どうしたんです?ダンスの猛特訓中なんですけど」
「連絡によるとモロは意外と真面目な奴なんだよね。剣が強くてトップとして仕事もこなしていて、女性には不器用…くらいで話と噛み合わないんだよ」
「ウチのリーダーみたいですね。顔は怖いが実は真面目…だとしたら誰かにハメられてる、もしくは別に主犯がいるって事ですか?」
相変わらず綺麗な八雲さんは、スカートがシワにならないよう押さえてから石に腰をかけた。
「パーティの日は満月だ。狼が一番強い時期で気が抜けないし、姫を連れて行かない方がいいけど、説得は無理そうだよね?」
「えぇ恐らく、おまけにモロが気になってるようで…厄介です」
危険を察知したらすぐに姫を帰す方向で作戦タイムは終わり『八雲さんが代わりをしてくれ』と思いながらダンスレッスンに戻った。
「もうさ私は無理、姫の格好する訳じゃないし、ばあやの隣に居たらダメ?」
瑠里が裏声を出して弱音を吐くと、ばあやはなるほどという表情を見せた。
「姫がゾロゾロいても変だし、百合一本にして瑠里は使用人ってのもいいかもね」
「え――っ、ズルい!」
床に膝まづき、アッサリと逃げる事に成功した瑠里をチラッと睨んだ。
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