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「犯人の目星は付いておって狼人間の仕業じゃ、兎の世界の者では到底倒せまいよ、だが簡単にいかんのじゃ」
「何故です?敵が強いのはさておき、そういうのは八雲がいる赤刺繍が得意そうな仕事ですよね?」
リーダーとよく喧嘩をしている八雲さんのチームは、女装メインの偵察役で強さも兼ね備え優秀なので疑問が浮かぶのはごもっともだ。
「姫がのぅ、人間の男性が近くに寄ると嘔吐してしまう体質なんじゃわ」
「私が見ても女性にしか見えませんでしたよ?」
犬の世界で浴衣姿の八雲さんを見た事があるが、綺麗なお姉さんにしか思えなかった。
「体質じゃからの、さすがについてるものまで取れとは言えんし……」
サーッと顔の血の気が引くリーダーだったが、昨日八雲さんが完璧にメイクをして訪問し、リバースされたとの事だ。
「ウチもかなり特殊メイクや声色を変える訓練には長けておるが、さすがに真のニューハーフはおらん」
木村さんや他の事務の人も候補に上がったが、年齢や体型が合わず私達に聞いてみる事になったらしい。
「なんで体型まで合わせないとダメなんです?」
「城で隠れとる間はいいが、外出しないとマズイ場合、身代わりになれんからじゃ」
という事は代わりに狙われる危険があり、かなり大きいリスクが伴う仕事なのは察しがつく。
「……絶対に嫌です」
「大丈夫。例えば百合さんが姫になったら、八雲が張りつけるし、何処から狙われても平気じゃろ?」
「平気じゃねーよ!今まで危ない目に何度も合ってるだろーが!」
声を大にして叫ぶと、社長は仕事向けの真剣な眼差しに変わった。
「百合の命は俺が守る、指一本触れさせないから安心しな」
「気持ち悪いんだよじじいっ、お前が一番信用ならね―だろが!」
社長の髪の毛を引っ張って文句を言うと、サラリと交わし距離を保ってから次の手に変更してきた。
「兎の世界は美味しいスイーツ山盛りだよ?今ならカボチャ類で、プリンにケーキやパンもあそこでしか食べられないよ」
今回ばかりは妹の心は微動だにしないが、私の動きは分かりやすく止まった。
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