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「お待ち下さい、見た目だけの判断は良くありませんよ?告白からスタートし、お付き合い…と順序もあります」
静かに隣に来たのは『じいじ二号』こと社長で、ススで汚れた顔は拭いていたが、若干首の周りは黒いままだ。
普段は嫌なキツネ面だが、こういう時は頼りになりそうだし、どんな言葉も弾き返しそうで安心出来る。
「だから連絡先を交換して欲しいって頼んでみたんだけど…」
「パッと見で兎の皮を被った般若とか分かります?貴方は失礼ながらウチの姫の相手は無理ですよ、綺麗な方は沢山いますし、キャバクラにでも寄って楽しんでお帰り下さい」
半分悪口で半分自分の趣味を入れてきたじじいにイラッとしたが、完璧に断ってくれたので仕方なく大目に見る事にした。
「じいやのパッと見は当たるから、僕も今見て分かったつもりだったんだけど」
「人生は予想外がつきものです……例えば姫が実は兎ではないとか」
ブチッと私の耳が片方引きちぎられ、ダメ押しに余念がない社長。
でも王子はクスッと笑った後、顔色を全く変えずに言葉を続けた。
「そんな他愛もない事気にしませんよ僕。またお目にかかれますので今日はこの辺で失礼します、またねベリーさん」
社長は王子が居なくなるまで黙って背中を見つめていた。
でも部屋から居なくなった途端、即座にキツネ面の胸倉を掴んだ。
「おいじじい、誰が般若だ!それに王子全然ヘコたれてないだろうが!狐人間にあんな種類いるって聞いてねえぞこっちは」
「アヤツ……ここに朧は来ておらんかったか?」
「さぁ、知りません」
社長の表情を見て咄嗟に嘘をつき、部屋から出て裏口から会場を後にした。
瑠里と八雲さんは一足先にイザリ屋に戻り手当を受けているらしい。
ばあやも無事送り届けられたようで、私達もドアを出してもらい潜ってパネル部屋に戻った。
姫やばあやに別れの挨拶が出来ないままだったが、荷物は潜入していた赤刺繍の人が持ち帰ってくれるらしい。
ドレスをきちんと脱いでシャワーを浴び、ようやくいつものつなぎ姿になるとホッとひと息ついた。
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