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「残念だけど般若のいう通りだよ、もう危険な目に合わせたくないし、私は絶対にお断り」
「一応珍しいバラの花もある……よ?」
「花なんか腹の足しにもならんわキツネじじぃ!貧乏人を馬鹿にするんじゃないよ!」
肉がないとこうも強気な妹に驚きながら、私の出番はなさそうなので静かにコーヒーを飲んだ。
でもそこはキツネで又も違う作戦で攻めてくる。
「瑠里さんお母さんは元気かのぅ?紅葉の時期じゃし旅行に行きたいお年頃じゃろ、何処か連れて行ってあげたりしたぁ?」
「母はそういうの……好きじゃないので」
「そう?木村さんが今日家に遊びに行ったら、旅行の話で盛り上がったみたいよ~?」
木村さんまで使って貧乏人に揺さぶりをかけて来るとは、抜かりがない恐ろしいキツネだ。
「豪華な料理に温泉、寝台特急や紅葉見学も含めて一週間の旅!素敵だと思わない?ママリン喜ぶよ~?」
「行く相手が居ませんので……」
「ハツにキムも有給あるよぉ?でもママリンは『娘に世話になって自分だけそんな贅沢できない』って断ったらしいの」
その言葉を聞くと少し胸が痛くなるのは私だけではない。
いつも家でご飯を作り、祖父母の実家で野菜を育て、時代劇を見ながらイナリと過ごす日々。
金はせびられるが自分というより、祖父母宅の修復費や作業の機械代。
友達も居ないのでマダムのお茶会とやらに参加もしていない。
私達は仕事とはいえ、豪華なホテルや温泉に泊まったりしているが、母は旅行すら行ってない。
「おい、お前ら騙されんなよ、マジで危険な目に合う……」
「黙らっしゃい!帰ってママンに確認してみて?」
ニヤリと笑うキツネは悪魔に見えるが、ドラム缶にとって悪い話じゃないのはよく分かっていた。
特に文句は言っていても、母に甘い妹には重たいボディブローに違いない。
今回もキツネの作戦にハマり任務に出るような予感が既に頭を過ぎっていた。
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