兎姫と狼人間

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扉を潜ると城の外壁が見え、白基調だが遊園地の裏側を見た気分だった。 「正面の景色は可愛いが、警護側はそうもいかん。何かあれば『バニーウーマン』で落ち合おう」 社長達とはここで別れ、八雲さんと三人の女装した人と五人で裏口から入り、調理室と思われるドアをノックした。 中から出てきたのはメイド姿で年配の兎人間…といっても、見た目は人間で耳が生えてるだけだった。 目が若干赤いがあまり気にならないし、金持ちそうなピシッとしたオーラが漂ってくる。 中を歩きながら話始め、時間を無駄にしないデキた人だと感心させられた。 「私は付き人のクッキー。姫は『ばあや』と呼んでおります。今日は本物の女性そうで安心しました」 八雲さんは苦笑いをしながら私達の後を歩いている。 「使用人に扮する準備も整っています。殿方達はあちらへ、お譲さん達はついて来て下さい」 テキパキと指示をして高そうな絨毯の通路を渡ると、大きなドアの前で立ち止まりノックを三回し、静かに部屋に入る。 「姫、お連れしました。百合さんと瑠里さんです」 椅子に座っていた姫が振り返ると、思わずポカンと見惚れてしまっていた。 「え――っ、なんか背格好は似てるけど、女子力なくない?ダサいつなぎと帽子被ってるし」 言われても仕方がないくらい姫は本当に可愛かった。 クリクリした目に綺麗にカールされた金髪、肌は白く透き通っているし胸もある。 メイド喫茶では指名一位だろうし、アイドルデビューしてもきっとチヤホヤされるだろう。 私達なんかと比べたら月とスッポンとしか言いようがなかった。 「ん?その子ペット?」 私の懐に入ってるイナリを指差し、珍しそうな顔をしてる。 「あ、ネットで見た事あるけどワンコでしょ。変わった目の色してるね」 そう言われてみればクッキーさんの目は兎っぽいが、姫の目はグリーンで綺麗な外人さんにしか見えない。 「ひ…姫の目も綺麗ですね」 「リップでいいよ、これはカラコン!流行ってるし、使い捨てだから気分によって変えてるの。まずその大きな荷物降ろせば?」 初めて女子の部屋に入る男性のような気持ちで、部屋を見まわしながらリュックを床に降ろした。
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