兎姫と狼人間

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兎姫と狼人間

すっかり木々が秋めいた景色になっても、我が家には芸術とか読書は全く似合わない。 ドラム缶ことウチの母の食欲は増加する一方で、負けじとがっついているのは山金犬でペットのイナリ。 口に物を入れない時はないという位、気付いたらモグモグとさせている気がする。 「いい加減にしなさいよ!秋はね読書とかスポーツもあるって事忘れないでよ?」 「大丈夫。毎朝の散歩もしてるし、イナリはちょっとスリムになった気がしない?」 「王子じゃなくて、メタボのオバサンに言ってるんだけど」 今日はトレーニングに行く日だが、朝から玄関で揉めている妹と母のやり取りはもう定番化している。 予防接種から帰るとどこで調節されたのか少し小さくなり、豆芝というよりはチワワをちょっと膨らませた程度の大きさになっている。 でも食欲は以前と変わらないので、ドラム缶からしたら羨ましい限りだろう。 イナリに向けて手を振るとドヤ顔で返してくれたので、引きつった笑顔をみせ出かける事にした。 「ったく食べ過ぎなんだよ、血圧の事もあるのに人の言う事全然聞かないんだから」 「同じ歳くらいのババ友でもいれば、ちょっとは気にするんだろうけどね」 事務の木村さんとは仲がいいようだが、二人とも同じような体型でダイエットとは縁遠い。 受付で微笑む木村さんを見ると、何となく苦笑いをしてしまった。 つなぎに着替えて指示されたトレーニングルームに入り、妹は手裏剣の個数を増やす訓練、私は狐火を操る稽古に励んでいた。 まだ任務で使った事はないが、イザという時の為練習しても損はない。 大きな音を立て暴れても防音なのは勿論、部屋の耐久性は基地並みに整っている。 「姉じゃ、手裏剣二つに増えたっ!やっぱり私には忍者になる資格が備わっているに違いない」 「はいはい。ここのハロウィン大会もどうせ忍者の格好で行くんでしょ?頼むから巻き込まないでよ?」 妹の最近のブームは『忍者探偵X』で、映画の影響で変な言葉遣いが直らない。 自宅でも時代劇を見せられているので無理もないが、しつこくていい加減付き合いきれない。
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