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荒れた息がおさまってくると、誰かが近づく足音がする。振り向けば、先ほどの当番兵とはの飴が二個載せられている。
和やかな笑顔に促され、梢子はおそるおそる手を伸ばし掴みとった。彼女の手にはひとつだけ、今は宝石とすら感じる菓子がある。青年は低く尋ねた。
「ひとつでいいのか?」
梢子は黙って頷き、視線で促す。青年は心底嬉しそうに笑った。
「俺のぶん?」
また頷く梢子の頭を、青年は丁寧に撫でる。そうして彼は立ち上がり、下衣の埃を払う。
「ありがとう。じゃあ、達者で」
青年は梢子に敬礼し、立ち去って行った。梢子はいつまでも彼の背中を見ていた。礼を言うのを忘れていたのに気づき、あとを追う。だが青年は早足で兵舎に戻ったらしく、もう姿は見えなかった。
今も彼の凛として透明な眼差しは、梢子の奥底に大切にしまわれている。
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