月夜の小鳥は哀切な嘘をつく。1

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カタン……と、人の気配がして目が覚めた。 部屋の暗さから、すっかりと日が暮れてしまっているのを知る。 あぁ、夢を見ていたんだな、と思う。 懐かしい夢。今更どうして何年も前の夢を見たんだろう。 一番、幸せだったからだろうか。 あの頃は良かったなんて、まるで長い人生を経験してきた老人のようなことを思ってしまう自分が何だか笑える。 でも、本当にあの頃は良かった……。 「……悪い、起こしたな 」 火照る身体を起こすのが億劫で顔だけ向けると、二海人のしなやかで節高な指が、額に張り付いた髪を払ってくれる。 僅かに残る人いきれの匂いに混じった、大好きな男の香りに、何度も収めた筈の欲望が、あっという間にまた頭をもたげてきた。 二海人は友達として心配してくれているだけなのに、こんな風になってしまう自分が嫌になる。 そう、あの頃はまだ、こんな厄介な、発情期なんてものも知らなかった。 ただ、素直な気持ちだけで二海人のことを好きでいられた。 「……電車、混んでた? 」 「ん、まぁ、いつも通り 」
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