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「もう、お帰りですか? 」
挨拶をしに、富樫の所へ顔を出すと、「朝食はどうなされます? 」と聞かれた。
「すみません、今日は帰ります 」
折角用意してくれていると分かってはいるが、一週間も部屋に籠って、ここの大事な坊っちゃんと毎日セックスをしていた身としては、一刻も早くここから辞したい。居たたまれない。
お世話になりましたと頭を下げると、「央翔様は知っておられるので? 」と聞いてきた。
「いえ、央……、久我さんはまだ部屋に、います…… 」
央翔がシャワーを浴びている間に、逃げるように部屋を出てきたのだ。口籠る真祝に、「それでは、お帰しすることは出来ませんね 」と、富樫がニッコリと微笑った。
「央翔様の大切な想い人をこのまま帰してしまっては、私が叱られてしまいます 」
「……っ?! お、想い人って……っ、俺なんか 」
突然、そんなことを言われて焦った真祝に、「おや、まだ央翔様は柚井様に想いを伝えておられないのですか? 」と連射された。
「え……?、あ、う…… 」
白い手袋を嵌めた手を口元に当て、ふむと富樫が眉を顰めて息を吐く。
「全く、駄目な方だ。今回こそは正式にプロポーズをするとおっしゃっていたのに 」
「ぷっ、ぷろぽーずっ?! 」
いや、待て。結婚して欲しいとは前に言われている。でも、正式にって。
「そんな顔をなさって、柚井様もお人が悪い。央翔様の気持ちなど、とうにご存知でしょうに 」
「でも、でも……っ 」
「央翔様は柚井様を日陰者にするおつもりはありませんよ。きちんとお迎えするべく、父上である当家の主人にもお話は通してあります。私共もずっと、柚井様が央翔様の元にいらっしゃるのをお待ちしております。後は、柚井様のお気持ちだけですのに 」
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