2825人が本棚に入れています
本棚に追加
「取り敢えず、座っとけよ。コーヒー、飲むだろ? 」
言いながら、二海人がけだるげにキッチンへと向かう。その姿を思わず、真祝は目で追ってしまった。湯を沸かしている間も、ずっと見詰めている自分に気付き、慌てて視線を逸らす。
ポコポコと電子ケトルの音に共鳴するみたいに、ドキドキと鳴る胸を真祝は叩いた。
うるせぇ! 静まれよ、俺の心臓!!
認めたくはなかったが、認めざるをえない。真祝は久し振りの二海人の存在に心が震えるのを感じていた。
……何なんだよ、1年経ったってのに、まだコレかよ。
キリッと口唇の端を噛む。薬指の指輪がひんやりと重い。確かめる様に右手を重ねれば、金属の冷たさが真祝を現実に呼び戻す。
あの頃とは違うのだ。一途に二海人だけを想えていたあの頃とは。
「何、突っ立ってんだよ。直ぐ持ってくから待ってなさいよって 」
「あ、あぁ…… 」
悩んで、真祝の知らない、新しいアイボリーのソファーの一番奥側に腰掛けた。
「……買い替えたんだ 」
「いい色だろ? 」
ふわりとコーヒーの薫りがして、真祝が顔を上げると、「随分、端っこに座ってんな 」と二海人が笑いながら、ソファーテーブルに真祝の分のコーヒーを置いた。
自分のコーヒーを飲みながら、二海人も反対側寄りに座る。
「……で、ここに来てまでも言いたいことっての、聞くよ? 」
そう、京香のことを聞きに来た筈だった。本当に二海人だったのか本人の口から聞いて、どうしてそんなことをしたのか確かめるため。それなのに、口を突いて出たのは、違う言葉だった。
「二海人は、大事な彼女とはうまくやってるの? 」
最初のコメントを投稿しよう!