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「付き合ってないのに大事なの? 彼女じゃないのに、大事なのか?」
すると、ふむ……と、二海人が何かを考えるように顎に手をやった。
「……お前さ、さっきから、彼女、彼女って、あの坊っちゃんから聞いた? 」
小さなため息と指摘が、央翔を責めているようで、告げ口をばらした気になってしまう。心の咎めを誤魔化すように、真祝は、その言葉を突っぱねた。
「そんなん、どうでもいいだろ! 俺が聞いてんだから! 」
二海人が、『まぁ、いいけど 』と、呆れた口調で肩を竦める。
「そうだな、大事だよ。少なくとも自分よりかは 」
「……っ!? 」
声色を変えた挑むような言い方に、そんなにも想うコがいただなんて、真祝はショックを受ける。真祝が想いをぶつけている間も、ずっと真剣にそのコのことが好きだったのかも知れない。それなら自分の想いなんて、鬱陶しかったに決まってる。遠ざけたくなったって、仕方がない。
「ごめん、二海人。いつからなの? 」
「ん? 」
「 誰? 俺の知ってるコ? 」
立て続けに質問をぶつけたら、「久し振りに会って、酔ってもいねぇのにコイバナかよ、容赦ねぇな 」と大きな手に頭をくしゃっと撫でられた。それだけで、ほわっと胸の奥が熱くなる。
「一目惚れだったよ。出逢った時から、馬鹿みたいにソイツだけだ。表情がくるくると変わって、見ていて飽きなくて、可愛くて堪らない。ソイツのためなら、何でもしてやりたい 」
淡々と語る情熱な言葉に、泣きたくなってしまう。聞きたいけど、聞きたくない。 知りたいけど、知りたくなんかなかった。
「けどそれだけ好きなのに、付き合ってないってどういうことだよ。ちゃんと自分の気持ち、伝えたのかよ 」
「お前、俺がフラれたってことは考えないの? 」
二海人を拒む人間が、この世に居るとは到底思えない。だけど真祝は、苦笑する二海人に念のため聞いてみた。
「フラれたの?」
「……言ってない 」
「やっぱり……。何で? 好きなんだろ! 」
「好きだよ。けど、好きよりもっとだ。愛してるでも足りない。だから、言えない 」
「はっ? そんなに好きなのに、言えないってことあるかよ!」
すると二海人は、ふっと瞳を細め、思い出した様にボトムのポケットを探って、入れていた加熱式煙草を「いい? 」と掲げる。真祝が頷くと、ドア部分をカチリと開き、マットゴールドのホルダーを取り出しながら言った。
「何でもしてやりたいって言ったろ? 自分がそのコのためにならないって分かってるのに、気持ちなんて伝えられない 」
節の長い綺麗な指が、ホルダーを口元へ運ぶ。二海人が煙草を吸っているところなんて、真祝は見たことが無かった。
「煙草、吸ってんだ…… 」
「そうだな。少し、気分を変えたかったんだ。切り替えたかった。もう無理して格好付ける必要も無いしな 」
そう言って、旨そうに煙を吐き出す。
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