7.

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二海人が何かを言い掛けた時だった。リビングの方から、真祝のスマホの着信音が聞こえてきた。きっと、ソファー横の床に放り出されている斜め掛けバッグの中からだろう。 「……お前のだろ? 取ってこようか? 」 「いい 」 首を振った真祝に、「出なくていいのか? 」と二海人が聞く。 「うん、後で掛けるから 」 相手は分かっている。きっと、待ち合わせ場所に、時間になっても現れない真祝を心配しているのだ。 でも今は、電話に出ても上手く話せそうにない。行けないと言っても相応の理由が無いと納得しないだろうし、具合が悪いと言ったら直ぐに行くと言うだろうし。アイツには、下手な言い訳は通用しないから。 心配性過ぎるとは思っていたが、それは心配だというだけでは無かったのだ。そこまで考えて央翔をそういう風にしてしまったのは自分だったのだなと、今更ながらに気付いた。 送ると言って聞かない二海人を、1人で帰りたいと言い聞かせて家に戻る用意をした。 「本当に大丈夫なのか? 」 「しつこい。ここでいいから 」と、玄関先でまで言う二海人の胸を笑いながら指で突く。 「でも、お前発情期だし 」 「大丈夫だって。今はお前ので安定してるみたいだし、(つがい)以外は気付かないって 」 「それも、そうだな 」 「そうだよ 」 とんとんと爪先を鳴らして靴を履く。 「俺と居るのを誰かに見られても困るしな 」 「そうそう、アイツ嫉妬深いんだから 」 「……そうか 」 ヨシッと言って、零れそうになる涙を堪える。やっと靴が履けた振りをしながら。 「じゃ、俺、行くね 」 「あぁ…… 」 玄関の扉を開けると、隙間からびゅうっと冷たい風が吹き込んだ。真祝は笑顔を作ると、二海人の方へ振り向く。 「バイバイ 」 そう言うのがやっとだった。平気な顔をしてドアを閉めた途端、一気に涙が溢れ出す。 ちゃんと笑えてたかな、笑えてたよね? 「ふ…… 」 声が聞こえてしまわない様に、歪んでしまう口元を手で押さえながら、真祝は通りへと駆け出した。
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