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覗き込まれそうになって、慌てて顔を逸らす。嫌われなくてはいけないのに、泣きそうになっている場合ではない。泣く資格なんて自分には無い。
真祝はすぅ……と、息を吸った。
「……他の男と、寝た 」
「え…… 」
そんなことを言われるなんて想像してもいなかったのだろう。央翔が息を飲むのが分かった。
「発情期だったしさ、我慢できなくなったっていうの? 誰でも良かったっていうか。お前だって知ってるだろ、俺が発情期の時、ど淫乱なの…… 」
「真祝さん 」
もし会った時にと用意していた台詞が、口の中で上滑りしてまろぶ。それを止めたのは央翔だった。
「それは、真祝さんの意思ですか? 」
温度の下がった声に、ゴク……と喉が鳴る。真祝は静かに瞼を伏せた。
これは全て自分の弱さと我が儘が引き起こしたことだ。自分の想いと都合で、二海人を騙して、央翔の優しさを利用して。だから、きちんと自分でケリを付けなければいけない。
真祝は瞳を開くと、顔を上げた。心を決めて、央翔の方に向き直る。
「そうだ、俺の意思だ 」
真っ直ぐに見詰めてくる瞳に、挑むように言った。
見開かれた目が炎を宿す。次の瞬間、ブワ……ッと威圧的なフェロモンが央翔から発せられた。全身の毛穴が総毛立つ。
「どうして……? 」
「そっ……の匂い、やめろっ! お前らαのそれっ、俺達からしたら凶器と同じなんだよ! 」
「……?! 」
αの、しかも番の激しいフェロモンを浴びても怯まず言い返せる真祝に違和感を感じたのか、央翔が項に顔を寄せると、スン……と匂いを嗅いだ。そして、何かに気付いたのか、真祝の両肩を掴んで揺さぶる。
「真、祝さん! 貴方、まさか……っ!? 」
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