7.

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ふっ……と、央翔の背中が揺れる。 「でしょうね、貴方ならそう言うと思っていました 」 「用が済んだんなら早く行けよ。お前の恨み言なんか、もう聞きたくもない 」 「……そうですか 」 お願いだから振り向かないで。真祝はその時、それだけを祈っていた。 だって顔を見られたら、泣いてしまいそうなことがバレてしまう。強がって、本当は不安で押し潰されそうな自分を見透かされてしまう。 央翔には、最低な自分のことなんかさっさと忘れて、もっと相応しい人と幸せになって欲しい。少しでも自分に心を残すことはあってはならないから。 「さよなら、真祝さん 」 そう言うと、央翔は部屋を出て言った。真祝は玄関に駆け寄ると、ガチャリと鍵を締める。 ドアを背にした身体が、ずるずると崩れ落ちた。 「もう、泣いてもいいよね? 」 立てた膝に顔を埋めれば、止めどなく涙が溢れる。 「央翔、ごめん。本当に、ごめん…… 」 恋がキラキラしているものだなんて、大嘘だ。 実際の恋は、自分のエゴで周りの人をこんなにも振り回し、傷付けて、運命さえ狂わせる。それでも、向かう想いは止められなくて、自分でもどうしようもない。 「ねぇ。誰も、居なくなっちゃったよ 」 愛する人も、愛してくれる人も。けれど……。 真祝は、そっと新しい生命(いのち)の宿る、自分の腹を擦る。 「僕には、お前がいるね 」 産まれる前から父親が居ないなんて、お前にも、僕の勝手で迷惑掛けるけど。 「僕がお前のことを2人分、大事にするから。2人分、愛するから。だから、許せよ、な…… 」 自分自身の嗚咽が部屋に響く。堪えようとしたら、喉から変な声が出てしまう。 止まらない涙。こうなったら、枯れるまで泣いてやろうと思った。誰が見ている訳でもない。 そうして一頻り泣いたら、ふと、頭の中に文字が浮かんだ。頭の中で暫く留め置くと、もうそれしかないと思えた。 「決めたよ、僕から最初のお前へのプレゼント。お前の名前はね…… 」 そう語り掛けると、真祝は零れ続ける涙を指で拭いて、ふふっと微笑んだ。
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