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8.
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「お久し振りです。まさか、仕事でお会い出来るとは思いませんでした 」
名刺を受け取った男は、出逢った頃の若さ特有の甘さが抜けて、すっかり精悍な面構えの大人の男になっていた。
「こちらこそ嬉しいですよ。お元気そうで何よりです」
こちらも差し出された名刺を受け取った。同時に左手の薬指を盗み見て、指輪が無いことに違和感を覚える。
あれから3年、いや、出逢ってからは4年が経ったのだ。あんなに独占欲を見せていた男が、まだ手に入れていないということはおかしい。
「失礼ですが、未だご結婚は? 」
「嵐柴?! 」
不思議に思って聞くと、同席している上司に諌められる。それを見て、「いいですよ 」と央翔が苦笑した。
「残念ながら、良いご縁がなくて 」
ご縁? 縁も糞もねぇだろ? コイツは何を言っている?
「そんなことはないでしょう? アイツはどうしています? 」
知らず知らずのうちに、片方の口角が上がる。それに気付いた二海人は、『全く…… 』と、辛抱の利かない自分に呆れた。ビジネスの場だというのに。
「おい、嵐…… 」
「構いませんよ、彼は私の知り合いですから 」
ニッコリと央翔が微笑む。その表情を見て、二海人は少し驚いた。
こりゃまた、随分と胡散臭い顔が出来る様になったもんだ。
「すみません。あまりに『久し振り』なもので、懐かしくなってしまいました 」
そう言って、二海人も負けず劣らずの微笑みを返す。けれど、言葉とは違い、引く気など更々無かった。
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