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表情が苦々しいものに変わった。それでも、久我 央翔が真祝を手放したなど考え付きもしなかった。
「喧嘩でもしたかぁ? 」
二海人は茶化す様に笑いながら、肩を竦める。
「何が『わざと』だよ、惚気ようとしてるなら勘弁してくれ。 まぁ、まだ結婚してないってのは想定外だったがな。君と結婚すると言うことは、久我家に入るということだから色々とあるんだろうが、あんまり待たしてやんなよ…… 」
「真祝さんとは、別れました 」
資料を片付ける手が止まる。今、コイツは何んて言った?
「は? 」
「もう、会っていません 」
反らしていた視線を戻すと、真剣な瞳とぶつかる。そのまま、まじまじと見るが、央翔が嘘を言っているようには見えなかった。
真実なのだと理解した途端、全身の体温が一気に上がる。だが反対に、胸の内は信じられないくらい冷たくなっていく。
「……どういうことだ? 」
「知らなかったんですか? 嵐柴さんとは連絡を取っているんだと思っていました 」
衝動的に掴みかからなかったことに、自分を誉めてやりたい。二海人は荒々しく髪をかき上げると、大きく息を吐いた。
「捨てたのか? 」
「やめてくださいよ、こんな所で 」
周りを気にする央翔を、殴りたい気持ちに駆られる。
捨てた? 汚れの無いアイツを抱いて、項を噛んで、番にして、結婚よりも深いと言われる繋がりを持ったくせに?
ガタンと会議机が音を立てる。
「何があったか、説明しろ 」
腹の底から出る低い声。腕を掴むと、央翔が顔を歪めた。その顔を見て、ギリ……と更に力を強くする。
「離、せ…… 」
「内容如何によっちゃあ、このまま、折ってやってもいいんだぜ、坊っちゃん? 」
酷薄そうな笑みを浮かべて言えば、観念したのか、央翔が「分かりました 」と言った。
「でもここでは何んですから、場所を変えましょう 」
いつの間にか、何事だと周りから注視されてしまっていた。気付いて力を緩めてやると、直ぐに腕を引ったくる様に取り返される。
「私も、貴方に話したいことがあります 」
そう言うと央翔は、掴まれた腕を擦りながら顎でドアの方へと二海人を促した。
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