8.

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表情が苦々しいものに変わった。それでも、久我 央翔が真祝を手放したなど考え付きもしなかった。 「喧嘩でもしたかぁ? 」 二海人は茶化す様に笑いながら、肩を竦める。 「何が『わざと』だよ、惚気(のろけ)ようとしてるなら勘弁してくれ。 まぁ、まだ結婚してないってのは想定外だったがな。君と結婚すると言うことは、久我家に入るということだから色々とあるんだろうが、あんまり待たしてやんなよ…… 」 「真祝さんとは、別れました 」 資料を片付ける手が止まる。今、コイツは何んて言った? 「は? 」 「もう、会っていません 」 反らしていた視線を戻すと、真剣な瞳とぶつかる。そのまま、まじまじと見るが、央翔が嘘を言っているようには見えなかった。 真実なのだと理解した途端、全身の体温が一気に上がる。だが反対に、胸の内は信じられないくらい冷たくなっていく。 「……どういうことだ? 」 「知らなかったんですか? 嵐柴さんとは連絡を取っているんだと思っていました 」 衝動的に掴みかからなかったことに、自分を誉めてやりたい。二海人は荒々しく髪をかき上げると、大きく息を吐いた。 「捨てたのか? 」 「やめてくださいよ、こんな所で 」 周りを気にする央翔を、殴りたい気持ちに駆られる。 捨てた? 汚れの無いアイツを抱いて、(うなじ)を噛んで、番にして、結婚よりも深いと言われる繋がりを持ったくせに? ガタンと会議机が音を立てる。 「何があったか、説明しろ 」 腹の底から出る低い声。腕を掴むと、央翔が顔を歪めた。その顔を見て、ギリ……と更に力を強くする。 「離、せ…… 」 「内容如何(ないよういかん)によっちゃあ、このまま、折ってやってもいいんだぜ、坊っちゃん? 」 酷薄そうな笑みを浮かべて言えば、観念したのか、央翔が「分かりました 」と言った。 「でもここでは何んですから、場所を変えましょう 」 いつの間にか、何事だと周りから注視されてしまっていた。気付いて力を緩めてやると、直ぐに腕を引ったくる様に取り返される。 「私も、貴方に話したいことがあります 」 そう言うと央翔は、掴まれた腕を擦りながら顎でドアの方へと二海人を促した。
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