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連れていかれたのは、ビルの最上階だった。硝子張りの、光を取り込む真っ白な広い部屋。二海人はひゅうと口笛を吹く。
「流石だね、専務様は。こんな凄い部屋まで貰ってんの? 」
「違いますよ、ここは社長室です。父が不在の時は、来客の時などに私が使わせてもらってます 」
「あぁ、パパのもん、借りてんのね 」
ハハッと笑ってやると、「いづれは、俺のものですから 」と央翔がムッとした声を出した。
それを聞いて、思わず浮かんだ笑みを、ふっと息を吐いて誤魔化す。
そうだ、それでなくちゃ困る。表面的な話
をしに来た訳じゃない。こっちは本当のことが知りたいんだ。
二海人は勧められる前に、革貼りの立派なハイバックソファーに腰掛けた。そして、開いた長い脚に肘を乗せ、口の前で両手の指先を合わせる。
「さて、それじゃあ、俺が居ない間に何があったのか、……全部話してもらおうか 」
挑む瞳に、一瞬央翔が怯んだのが分かった。だが、場数を踏んでいないとはいえ、久我の御曹司なのは伊達ではない。直ぐに緑色の瞳でこちらを真っ直ぐに睨み返しながら、正面のシングルソファーに座った。
「そんな、自分は何もしてないみたいな余裕の表情してますけど、アンタも同罪ですよ 」
「面白いね、何の罪だ? 」
「アンタも加担したでしょう? あの人を無理に俺の番にした復讐をされました。捨てられたのは俺の方です 」
「へぇ……。で、アイツは君に何をしたんだ? 」
「……っ、発情期を狙って、見ず知らずの男との子供を作ったんですよ! 」
央翔が口に出すのも嫌なのか、ため息を吐きながら、金色に近い髪をガリガリと掻く。
「側に居て信用させて、プロポーズまで受けた後で、裏切る算段だったって訳です 」
「ふぅん、それで? 」
「それでっ、て…… 」
動揺の欠片も見せず、先を促す二海人に央翔は言葉を失った。
「それで、坊っちゃんは逃げ出したって訳か 」
くすっと笑った二海人に、央翔が噛み付く。
「何ですか、アンタッ! そんな仕打ちを受けて、俺にどうしろと……っ! 」
「さぁね。でも、俺がお前だったら喜んで『オオヨシキリ』になってやったな 」
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