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「『オオヨシキリ』って、アンタ……、『カッコウ』の子を、育てるって言うんですか? 」
考えられないと、央翔が絶句する。
「そうだな、苦しいだろうが、アイツを失うくらいならそっちの方がよっぽどいいよ。逆にそこに付け込むね 」
手に入れていたヤツには、きっと一生分からない。
唯1つ、真祝の幸せを願ってのことであっても、他の男に差し出した時のあの身を切られるような想い、他の男に抱かれる時の真祝の悲痛な叫び声はいつまでも耳にこびりついて消えることはない。
「まぁ、君と俺とでは考え方も背負うものも違い過ぎるから、理解出来なくてもしょうがないと思うよ。でもね、君は必ずまほを幸せにすると言った、俺も君を信頼したからこそ、まほを任せた。その約束を違えたことは許せない 」
「約束も何も……っ、俺の気持ちを踏みにじって、捨てて、他の男の子供を産んだのは真祝さんだ! 」
央翔の反論に、蟀谷がピクリと動く。
産んだ? もう、子供は産まれてるってことか? しかし、別れてから会っていない筈のコイツが何故知っている?
開発部署に行ってから程無くして、真祝に電話をした時には、もう既に連絡が取れなくなっていた。日本に一時帰国した際もアパートを訪ねてはみたが、既に住人は変わっていた。
最後に会ったあの時、久我の元へ戻ると言っていたから、自分との接点を切りたいのかと思い、探すことはしなかったけれど。
はぁ……と、二海人は央翔に聞こえる様に息を吐く。
「子供を産んだことを知ってるってことは、お前、まほの居所知ってんな? 分かってて助けてやらなかったのか? 」
「真祝さんは、憎い俺の手助けなんて必要としていな……」
「それが何だっ! 」
央翔が言い終わらないうちに二海人は大きな声を上げると、央翔の胸ぐらを掴んで激しく揺さぶる。
「アイツは大学在学中に、たった1人の身寄りである母親を亡くしてる! 頼る者もない! それなのに、見てるだけで放っておいたって言うのか?! プライドか何か知らないが、気にはなるくせに、アイツの苦しい時に側に居て支えてやらなかったって言うのか?! 」
チッと、二海人は舌打ちをすると、突き飛ばす様に手を離した。反動でよろけた央翔がソファーに沈む。
「全く、本当に見込み違いもいいところだ 」
違う。1番頭にきてんのは、何も知らなかった自分自身にだ。
「アンタに、そんな事言われたくない。他に好きな女が出来て、真祝さんを俺に押し付けたアンタに…… 」
襟元を直しながらそう言う央翔に、二海人は上から冷たい視線を落とす。
「何のことだ? 俺はガキの頃から、真祝のことしか見てねぇよ 」
「……?! 」
央翔が信じられないことを聞いたかの様に、目を大きく見開き見上げてくる。
「勝手にお前らが勘違いしただけだろ 」
こっちとしても、その方が都合良かったしな。
しかし、その先の言葉は飲み込んで二海人は言った。
「アイツ、返して貰うぞ 」
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