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ドアが閉まる音が響く。部屋に1人残された央翔は、立ち尽くしていた。きっと自分は今、凄く酷い顔をしているだろう。
「貴方、なんですね? 」
自分のモノだと主張したあの男の目を見た瞬間、瞳の奥で耀く歓喜の色に気付いてしまった。それは、確信だった。
「……だったら? 」
嵐柴は否定するでも、肯定するでも無く、そう言った。いつも飄々とした男だと思っていたが、その不遜な態度がやけに腹立たしかった。悔しくて、切なくて、心臓がじくじくと痛くて苦しい。堪らなくなって叫んだ。
「そんなに大事なら何であの人を手放したんですか?! 知ってたでしょう? あの人はあんなに貴方のことが好きだったのに!! 」
そして、アンタも。
すると、嵐柴は瞳を細めると寂しげに、薄く微笑んだ。
「……俺は、βだからな」
その表情を見たら、何も言えなくなってしまった。そして、その一言が全部なのだと悟った。
幾ら好きでも、βはαの様に、本当の意味での苦しみから開放してやることは出来ない。全てはΩであるあの人のために、気持ちを押し殺して身を引いたということか。それでも、募るお互いの想いには逆らえずに……って?
そんなの、勝てる訳がないじゃないか!
それでも、本音を言えば渡したくない。渡したくなんかない。番として、納得も出来ない。
だから、最後にこれ位は許される筈だと思った。
「確かに俺は、あの人の住んでいる場所を知っています。でも、アンタに教える気はありません。欲しいなら、自分で捜して下さい 」
嵐柴は瞳を見開くと、直ぐに細めてニヤリと笑って言った。
「上等 」
どうせ、こんなことをしたって、アンタはあっという間にあの人を見つけるんだろう?
抱き締めて、自分の言った通りに、アンタだけのモノにするんだろう?
考えただけで腹が立つ。初めから、嫌いで嫌いで仕方が無かった。真祝さんは本当に趣味が悪い。
ツッ……と、頬に何か熱いものが伝った。
途轍もない敗北感に、二海人が部屋を出て行った後も、暫く央翔はその場から動けないでいた。
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