8.

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ドアが閉まる音が響く。部屋に1人残された央翔は、立ち尽くしていた。きっと自分は今、凄く酷い顔をしているだろう。 「貴方、なんですね? 」 自分のモノだと主張したあの男の目を見た瞬間、瞳の奥で耀く歓喜の色に気付いてしまった。それは、確信だった。 「……だったら? 」 嵐柴は否定するでも、肯定するでも無く、そう言った。いつも飄々とした男だと思っていたが、その不遜な態度がやけに腹立たしかった。悔しくて、切なくて、心臓がじくじくと痛くて苦しい。堪らなくなって叫んだ。 「そんなに大事なら何であの人を手放したんですか?! 知ってたでしょう? あの人はあんなに貴方のことが好きだったのに!! 」 そして、アンタも。 すると、嵐柴は瞳を細めると寂しげに、薄く微笑んだ。 「……俺は、βだからな」 その表情(かお)を見たら、何も言えなくなってしまった。そして、その一言が全部なのだと悟った。 幾ら好きでも、βはαの様に、本当の意味での苦しみから開放してやることは出来ない。全てはΩであるあの人のために、気持ちを押し殺して身を引いたということか。それでも、募るお互いの想いには逆らえずに……って? そんなの、勝てる訳がないじゃないか! それでも、本音を言えば渡したくない。渡したくなんかない。(つがい)として、納得も出来ない。 だから、最後にこれ位は許される筈だと思った。 「確かに俺は、あの人の住んでいる場所を知っています。でも、アンタに教える気はありません。欲しいなら、自分で捜して下さい 」 嵐柴は瞳を見開くと、直ぐに細めてニヤリと笑って言った。 「上等 」 どうせ、こんなことをしたって、アンタはあっという間にあの人を見つけるんだろう? 抱き締めて、自分の言った通りに、アンタだけのモノにするんだろう? 考えただけで腹が立つ。初めから、嫌いで嫌いで仕方が無かった。真祝さんは本当に趣味が悪い。 ツッ……と、頬に何か熱いものが伝った。 途轍もない敗北感に、二海人が部屋を出て行った後も、暫く央翔はその場から動けないでいた。
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